ギターを科学する 〜ピックアップの音量の真実 アクティブ編〜

ギターのピックアップ、その接続の仕方によってどう音量が変わるか、測定してみた。
 

なぜピックアップの音量を測ってみたのか?

きっかけは所有するギターのピックアップをパッシブからアクティブに変更しようとしたこと。ギター工房に頼まず自分で配線しようとネットで配線の例を検索していたのだが、レスポールストラトなどのメジャーなギターの配線例は数多く見つかったものの、「何故、その配線にしたのか? どんな音になるのか?」という説明や原理が書かれたサイトは見付けられなかった。
 
ギターに搭載するピックアップの数は1つから3つとバリエーションがあり、単体で使って出力したり、複数を繋いで出力したり、欲しい音に合わせて様々な組み合わせを演奏中に切り替える。音楽的感性に基づき感覚だけでピックアップの組み合わせを選べば良いのだが、所詮ギターは自然現象を利用して音が鳴らしているに過ぎず、その原理を正しく理解することは演奏に役立つことは自明である。そうならば、と自分で音量を計測してみた。本記事はほとんどの人には必要ない情報かもしれないが、自分のような「ちゃんと理解しないと気持ち悪い」人に向けて書く。
 

どうやって測ったのか?

ギター用アクティブピックアップにおいて代表的なものといえば、EMG社製の85と81。プリアンプをピックアップの中に内蔵しており、ローインピーダンスゆえにノイズの少ないことと、Hot端子に9v電池を繋ぐだけで利用できる手軽さが特徴。
音量を測定して評価するには、以下の2つの仕組みが必要である。
  1. ピックアップに一定の磁界の変化を与え続ける装置
  2. ピックアップから出た電気信号を音量として数値化する装置
1.の実現についてはギターの弦を常に同じ力で弾くことを最初に考えたが、そのデータに客観性がないため、磁界変化を連続的に発生させる装置が必要である。ちょうどジャンクのスピーカーが2つ余っていたので、PCから音をスピーカーで再生して、スピーカーの磁界変化をピックアップで拾わせることにした。また、波形は複数を試したいため、Pure data(以下PD)でパッチを作成し、正弦波(osc~)、ホワイトノイズ(noise~)、ノコギリ波(phasor~)を出力できるよう用意した。
 
2.の実現については、素直にPCを活用することしか考えられない。Pure dataでパッチを作成し、入力された音(adc~)をエンベロープenv~)で音量を数値として表示する。音量はRMS(二乗平均平方根)した値をdb(デシベル)に変換し評価する。
 
PCからスピーカーで音を出力し、EMGピックアップで拾った信号をPCへ送るという流れは、写真1のようになる。PDのパッチは、図2のように作成。
 

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写真1: ピックアップとスピーカー

 

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図2: pure dataのパッチ

スピーカーから出力する波形は、サイン波(600Hz)、ホワイトノイズ、ノコギリ波(400Hz)の三種類。ピックアップ側の回路は、「EMG 85単体」「EMG 81単体」「EMG 81+85ミックス」の3種類を用意。EMG 81+85ミックスは2つのピックアップからの出力信号を結線してミックスする、いわゆるパラレル接続/パッシブミックスである。また電源は9vと18vの2種類を用意。通常は9vを使用されるが、「18vにモディファイするとアクティブくさい音がマシになる」と言われているため、本評価のメニューに入れた。
 
測定する前は「内蔵されたプリアンプの出力をパッシブミックスすると、81の音量+85の音量と加算され、かなり大きな音になるのではないか?」と仮説を立てていた。
 

どんな音量?

図3が測定結果である。

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図3: 測定結果のグラフ
 
次のような特徴が見出だせる。
  • EMG 85と81の出力を比較すると、81の方が出力が大きい
  • 81+85ミックスすると、81と85を足して2で割ったような中間的な音量になる
  • 供給する電池電圧 9vと18vで比較すると、EMG 81単体はほとんど差異がない。一方、EMG 85は18vだと出力が下がる。
 

考察と最後に

ピックアップの特色からEMG 81はリア/ブリッジ側、85はフロント/ネック側に配置されることが多い。曲中でバッキングする際には音圧がありしっかりした音でリフを刻むことに向いているピックアップが81であり、ソロでリードを弾くときに強弱のニュアンスが出やすい81に切り替える、というのが音量という切り口で納得できた。
 
また、「パッシブミックスすると中間的な音量になる」という結果は、「音量がバカでかくなる」という測定する前の仮説とはまったく異なるものとなった。81と85のインピーダンスはどちらも10kΩであり、ミックス時には片方の電気信号がもう片方の負荷(=インピーダンス)により制限を受けて低下している、と考えられる。オペアンプミックスしない限り音量が倍になることはないのである。ハムバッカー2つを並列で繋ぐ機会は、演奏中はあまりないと思われるが、安心して使っていきたい。
 
18vの電源電圧については、この測定結果だけでは何とも言い難い。「18vはパッシブのようにニュアンスが出やすい」と言われているため、「出力音量の大小」という評価軸では判断できない。
 
最後に、本記事のような音を扱う実験にはPDがお手軽かつ強力なプログラミングツールだと実感した。次の記事では、パッシブ・ピックアップで測定した結果をまとめたので、その驚きの結果を是非ご覧いただきたい。